過去の文章②

続きまして、第二弾。

これは、自分の文章じゃなくて、友人の文章。今では疎遠になってしまったけど、この頃(20年ぐらい前)は、少なくとも自分は親友のつもりでいた。

で、彼は自分で映像を作ったりしていて、そのシナリオ。実際の映像のデータも持っているけど、なかなか文章だけでも味わいがあると今でも思う。

もしもクレームが来たら削除します。

 

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「無限の長さ」

 

そこにKがいた。幾重にも巻き付けられたコードの中のような世界に

僕とKがいた。

全てが中途半端に感じる90年代後半、僕らは22歳というこれまたハンパな数字で

棲みついていた。

Kは高校中退以降、幾つものアルバイトをすぐにやめてはまた始めるという生活をしていた

僕はなんにも疑問をもたずに大学に入り、またなににも興味がない会社に就職した

Kと出会ったきっかけはなにも劇的な出会いなんてなく、共通の友だちの友だちというありきたりな出会いだった

しかし初めて出会った時 Kはいきなり僕に言った「お前はなんの被害者だ?」

僕にはなんの意味かもわからなかった、僕は普通に遊び、普通に仕事をし全てが普通の日常だった

だがKはなぜだかわからないが、そんな僕に興味をもったのか、僕もなんだか自分とまったく違うKに惹かれ

一緒に過ごす時間が増えていった、友だちなのかただの知り合いなのかそんなのはまったく気にせず

Kは色んな事を知ってたし経験していた。そして僕はそれを教えてもらうのがとても楽しかった

Kは自分でバンドをしていた。僕は音楽にはまったく無頓着であり日々流れるヒットチャートをなんとなし聞いているだけだった

Kに言わせてみれば「あんな音楽は犯罪だ」と言っていたが何がどう違うのかよくわからなかった

Kが自分のライブに僕を呼んでくれた。ライブハウスなど行ったことのない僕は、Kがどんな音楽をやっているのか?

どんなお客さんがいるのか?などという事より、Kがそこでどんな表情をしているのか?という事の方が気になった

そこにいたKはお客などまるで見えていないように、何かを自分の何かを振り払うかのようにただ黙々とギターをかき鳴らしていた

ライブが終わった後に僕はKに声をかけたみた「すごい よかったよ」と

それを聞いたKは今まで見たことのない険しい表情で「終わりだ、意味がない」とだけ言って立ち去っていった

僕はそれはなにやら音楽の事なのだろと思っていた。その考えは後からまったく違っていたと思い知る

しかしそんなやり取りがあった事など忘れたように、Kと色んな事をして遊んだ

スケボーをやり、ギターを教えてもらい、クラブに一緒に行き、マリファナも吸った

はたから見れば特別な事じゃないかもしれないが、僕には新鮮だった、それだけじゃなく

それらをやってる、そこらへんの奴等の中でもKはなぜだか異質にみえた、実際一緒にいてもKはそこにはいない気がしていた

時々Kはよくわからない事を言った「全ては自然淘汰される」、「あのウッドストックはただのサーカスだったんだよ」

僕はただそれを聞いていた

2000年がやってきた、各地で花火が上がり、人々がなにかを祝っていた、テレビがなにやら喚いていた

同時にKがいなくなった

僕は2,3日、Kを探した

どこにもいなかった

しかしKがいない街はなぜだかバランスがとれているように感じた

僕はそれ以上探さなかった、あんなに遊んだのに、あんなにKに惹かれてたのに

自分の感情はあまり悲しみもむなしさも感じなかった

またいつもの監獄のような普通と呼ばれる日常に戻るだけだった

ただ一つ、Kに聞きたい事があった、それは初めて出会った時の言葉

「お前はなんの被害者だ?」

その意味を聞きたかった

2001年9月11日

2機の飛行機が世界貿易センタービルと言う所に飛び込んだ

僕はその日クラブに行っていた 家に帰るとその映像が流れていた

僕はそれをみて笑っていた

笑っていた

とても可笑しかった

その出来事は後から事故ではなくテロという事になっていた

そのニュースを聞いた瞬間、Kの存在を急に思い出した

あの飛行機にKが乗っていた

そんな事を思った

その1年後僕は街の中心の公園でスケボーを友だちとやっていた

そこでKに再会した 何もない再会だった

Kはひどく歳をとってるように感じた くたびれた感じ Kにもう異質さは感じなかった

僕はKに「どこいってたの?」

Kは「・・・ちょっとね」

それから一緒に始めて遊んだ郊外の公園に行った

公園は取り壊されていた

まっさらな土地に変わっていた

Kは「マリファナやりてーな」

僕は「持ってないよ」

その代わりにセブンスターを上げた

Kはすまんと言ってタバコを吸い始めた

僕も吸った 以前のKはすまんなんて言葉は使わなかった

逆光で黒く見えるKはただの黒いかたまりにみえた

僕が求めていたKはそこにいなかった

僕は「初めて出会った時なんて言ったか覚えている?」

聞きたかった 

それだけが聞きたかった

「覚えてねーなー、なんだっけ?なんか言ったっけ?」

「お前はなんの被害者かって」

「あーーなんかいったなー あれだよあれ 冴えねー顔だなーって たぶんそんな感じかな」

Kに殴りかかった 殴った 殴り倒した

Kは薄気味の悪い笑みをうかべていた

そう昔の自分みたいに

それからもうKに会う事はなかった

僕は確信していた、あの言葉の意味はもっと違う所を見ていたKの言葉だったと

幾重にも絡まったコードの中のような世界を外からみていたKだけの言葉だと

聞くところによれば、Kは自己啓発セミナーまがいの幹部になり沖縄にいるらしい

キャッチコピーは「君の力が世界を変える」

2000年にその団体は何かを起こそうとしたらしいが、結局ニュースにもならなかった

Kはそのために街からいなくなった そう思うと全てが馬鹿らしくなる

Kは僕にとって特別だった この異常にからまったコードの中のような世界で

今日もなにも変わらない日だ

 

ただこの街は沖縄と違ってもう雪が降りそうだ

僕は今マリファナを吸いながら、世界が終わる日を待っている

Kがあの頃していたように

                                       END

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